「親が亡くなった後に自筆の遺言書が出てきたが、本人の筆跡と異なるように感じる」
「作成された当時、親は重度の認知症を患っており、自分で書いて内容を理解できたとは思えない」
自筆の遺言書(自筆証書遺言)は、専門家が関与せずに作成されることが多いため、その真偽や有効性をめぐって親族の間で対立が起きやすいものです。「本当に本人の意思で作成されたのか」という疑念がある場合の、実務上の確認ポイントと解決へのアプローチを簡潔に解説します。
遺言書の真偽を分ける2つの争点
遺言書の有効性を争う場合、実務上は主に以下の2つの観点から客観的な事実を確認します。
1. 形式や筆跡に関する疑い
自筆証書遺言は、本人が本文・日付・氏名をすべて手書きし、押印する必要があります。形式に不備があれば無効となります。
【筆跡の相違】
日記や手紙、契約書などの生前の筆跡と、遺言書の文字の癖や筆順、署名の特徴を比較します。
【作成経緯の不自然さ】
普段使わない筆記具が使われている、保管状況が不自然である、特定の親族が作成に強く関与していた可能性があるなど、作成時の状況や周辺事情を確認します。
2. 作成当時における判断能力の有無
遺言書を書いた当時、本人に遺言の内容を理解し判断する能力があったかが問題になります。認知症であったからといって、直ちに遺言書が無効になるわけではありません。ただし、遺言書作成時に意思疎通が困難であったり、財産の内容や遺言の意味を理解できない状態であったりした場合には、遺言能力が問題となり、遺言書が無効と判断される可能性があります。
疑念を明らかにするための客観的な調査方法
本人の筆跡や当時の判断能力を確かめるため、医療機関や介護施設などに残されている客観的な記録を収集・確認します。
1. 医療記録・介護記録の確認
遺言書が作成された時期のカルテ、看護記録、介護施設の介護日誌、要介護認定資料などを取り寄せます。そこに「意思疎通が困難」「説明を理解できない」といった具体的な記録があれば、当時の判断能力を検討するうえで重要な資料になります。
2. 生前の筆跡資料の収集
役所の書類、日記、手帳、年賀状、契約書など、本人が生前に自筆で書いた資料をできるだけ集め、遺言書の筆跡と照合・対比します。必要に応じて、筆跡鑑定を検討することもあります。
法的な解決に向けた主なステップ
当事者同士での話し合いが難しい場合は、法律に基づき以下の手続きを検討します。
1. 遺言無効確認調停・訴訟
家庭裁判所での話し合い(調停)を検討します。調停で合意に至らない場合には、地方裁判所に遺言無効確認訴訟を提起し、遺言書が無効であることの確認を求めます。収集した資料などをもとに、法的な主張を整理します。
2. 遺留分侵害額請求
仮に遺言書が有効と判断された場合でも、遺言内容によって遺留分が侵害されている場合には、遺留分侵害額請求を検討できることがあります。遺留分侵害額請求には、原則として、相続開始および遺留分侵害を知った時から1年という期限があります。また、相続開始から10年が経過すると権利を行使できなくなります。遺言書の有効性を争う場合でも、遺留分の期限を過ぎないよう、請求の意思表示を行うかどうかを早めに検討することが重要です。